台湾・高雄に着いて、最初の一食。
せっかくならと思い、ホテルの人におすすめのお店を聞いてみると、「近くに、京鼎樓(ジンディンロウ)があるよ」とのこと。
ただ、このお店は台北にも日本国内にも店舗があるので、もっと地元の人が行くようなお店はないのか聞いてみました。
そこで教えてもらったのが、「許記蒸餃」。
「ローカルなお店でも大丈夫?すごく綺麗というわけでもないし、日本からの旅行者には苦手な人もいるよ」と。
そう言われると、かえって行ってみたくなりますよね。
なんたって、地元の人がすすめるお店ですから、その街の人たちの日常が見える場所。
これも旅の魅力の1つだと本当に思います。

宿泊していたホテルから徒歩5分。
たしかに地元のお店の顔をしていますね。
ちょうどお昼どきで、店内はほとんど満席。見渡すと、みんなが当たり前のように蒸籠を注文していて、なかには蒸籠ごとおかわりしている人までいます。
観光客らしい姿は、私のほかに見当たりませんでした。この街の人たちの、いつもの昼ごはんの時間に、混ぜてもらったような気分になれるのも醍醐味。


まず目を奪われたのは、店先の調理場でした。
厨房が奥に隠れているのではなく、通りに面していて、むしろ奥の座席に勝手に入って良いのか迷うくらい。
積み上がった蒸籠から白い湯気がもうもうと立ちのぼって、その手前で、いくつもの手が休みなく動いている。
こういう時こそ、カメラの登場です。


当時、お店には英語メニューがあるわけでもなく、英語表記ももちろんありません。そして、私の英語と中国語なんて、通じるわけもなく。
それでも「写真を撮ってもいいですか」とだけ、翻訳アプリを使って尋ねてみました。
そんなことを頼む客はめったにいないみたいで、「え、写真を?」というふうに笑われてしまいました。でも、いいよ、と。
会話はできなくても、この店のいい空気は、ちゃんと伝わってきました。
そして、言葉で説明してもらえないぶん、私は余計に、目の前のひとつひとつをじっと見ていたように思います。
蒸籠にそっと添えられた手つき。湯気の熱を確かめるような、慣れた指の動き。いちばん気に入っているのは、その手を撮った一枚です。
不思議なもので、写真を撮りはじめてから、この店の居心地が少しずつよくなっていきました。
その後、少しだけ空気が変わったのを覚えています。
「日本から来たカメラマンがいるよ!」
「もっと、撮る場所あるんじゃない?笑」
実際にどのように思われていたのかはわかりませんが、それでもほんの少しだけ、受け入れてもらえたような気がしたんです。
こういう体験は、未知の土地だからこその楽しさですよね。

いよいよ、待ちに待った蒸籠が運ばれてきました。
無骨で、手作り感全開のフォルム。皮はもっちり、中には肉がみっちり。大きなシュウマイに近いもので、何個でも食べられてしまうその味わい。
蒸籠ごとおかわりする理由がよくわかります。
綺麗な餃子が食べたい?そんな時には、ぜひ京鼎樓へ。

一緒に頼んだスープは、骨付きの肉がとろとろに崩れるまで煮込まれていました。日本ではなかなか出会えない、地元の味です。
取り繕わない場所から、取り繕わない一皿が出てくるこの空間が、ものすごく素敵に感じましたね。こういうお店が地元にもあったら最高だなと思いながら、ペロリと餃子とスープを完食。
ちなみに、このスープは麺との相性が良いそうで、ちゃんと看板を見たら麺入りのメニューが掲載されていました。

カメラがあったから、私はこの店の空気に、ただ食べるより少し長く浸っていられました。湯気を眺めて、手の動きを追って、シャッターを切って、あとで見返して。
おかげで、なんでもないはずの高雄のお昼が、私にとっては忘れがたい一食になりました。
その街の日常のなかから、特別な一瞬を切り取る。旅にカメラを持っていく理由は、たぶんこういうところにあるのだと思います。
── この日の一軒 ──
店名:許記蒸餃(台湾・高雄)
地元の人で賑わう、蒸し餃子のお店。名物の蒸餃はもちろん、じっくり煮込んだスープも絶品です。席は1階と2階にあり、空いた席に自由に座っていくスタイル。観光客向けではないぶん、その街の日常に触れられる一軒です。場所は、Googleマップより。










